主な登場人物
左から ムツ 俺 モンタ
初めてのアオリイカ釣り |
俺の釣り人生の中でもエギによるアオリイカ釣りとの出会いは衝撃的だった。なんてったて見える魚を釣るという釣りの中で最も難しいことがアッサリとできちゃうんだから。
10年前、ルアーを教わった先輩にエギでイカが釣れると聞いて東洋町でのサーフィンの帰り餌木を購入して那佐湾で挑戦したのが初体験だな。必死で釣っている俺を尻目にやる気のない後輩が1杯釣りやがって悔しかったのを覚えてるぜ。今考えると必死で釣っている俺はエギを止めずにシーバスのルアーをスローで引くように巻いてたんだけど、後輩Tは少し巻いたらあーしんどって感じで底においてたのが良かったんだな。
久しぶりの挑戦 |
そんなこんなで歳月が流れ一昨年のこと、徳島の釣具屋ホワイトハウスがやってる釣果メールサービスに登録したら、毎日毎日イカが釣れてるってメールをよこすもんだからムツっていう会社の後輩と取り合えず行って見ようと思って餌木を3個くらい購入して鳴門に出かけてみたんだ。
ロッドは10年前のシーバス用の剛竿、リールも10年前のダイワの安物3500番台、ラインはナイロンの5号、買ったエギはたぶん3号だ。当日はすごい強風で、今考えればこんな状況じゃ当然釣れないし、道具はめちゃくちゃ、3分ほっといても絶対エギが沈まない組み合わせなんだな。
結果、当然釣れなかったんで「ケッ面白くねえ」てなもんで、またエギは封印。この年は太刀魚釣りに精をだした。
鳴門ワカメ |
去年の10月久しく釣りに行ってなかった俺はムツに電話してみた。そしたら鳴門でアオリイカを何杯か釣ったって言うんだよ。そんなこと聞いたら居てもも立ってもいられなくなってまたまた即鳴門に出動だ。
なにも学習してないから道具は前回と同じ、でもこの日は風もなくコンディションは良かった。堤防の上からとにかく沖の方に投げて底を引いてみたら始めてすぐ小さなアオリイカが釣れていた。釣れていたという表現がぴったりで、感触はまさに鳴門ワカメを引っ掛けたような感じだった。
続いて投げてると今度はずっしりした重みを感じたので、「今度は釣ったぜ」と思ったら思い切り足を広げたタコだよ。うまかったけど・・・。
まぁこの日は初めてアオリイカを釣ったんで満足して帰ったんだけど面白みは感じなかった。だってさ、釣ったんじゃなくて釣れてたんだもんな。あれじゃゴミ掛けたのとかわんないよ。
大ハマリ編序章 |
ジョイントエギ
更に半年が過ぎた2003年の4月、シーバスでも行くかと土曜日の午後ムツに電話した。話してると目の前のテレビでビッグフィッシング(関西の人なら知ってるよね)の再放送が流れてて、和歌山の沖磯で大型のアオリイカをバンバン釣ってるのが流れたもんだから即イカ釣りに変更。
この頃、前述した釣具屋ホワイトハウスのメールサービスは携帯を替えたこともあって俺には届いてなかったんだけど、ムツには届いていた。ムツ曰く「甲浦に行けば絶対釣れますよ。間違いありません毎日メール来まくりですよ。」よーしじゃあ甲浦に行ってでかいアオリイカを釣りまくるかと出かけて行ったのさ。
この時のタックルはロッドは懲りもせず10年前のシーバス用剛竿、リールはシーバス用に一昨年買ったアルテグラ3000、ラインはナイロン12Lb、餌木は途中で買った安物の4号と10年前の初イカ釣りの時買ったヤマシタのジョイントエギだったと思う。
甲浦には3時頃到着、有名な旧フェリー乗り場から海を見るとシモリと海藻がいい感じでいかにも釣れそう。30分ほどキャストしたけどなんせどうやって釣るか相変わらず分かんない。一応昼間のテレビでシャクリの話が出てたので、こんな感じかなとシャクってはみるもののラインがナイロンだから殆どエギは動いて無かったはずだ。おまけに一番最初に買ったのがヤマシタのジョイントエギだったんで他のエギを棒引きして「このエギ泳がねーぞ。安もんはやっぱりダメやな」とか訳の分からないことを言っていた。
甲浦は結構広い港?なのであちこちでシャクリまくったけど反応が無かったので次にこれも有名な古牟岐に行ってみた。誰も居ない湾内は常夜灯が点いていい感じだったけど、結局二人ともノーヒットでこの日は終了。帰ってからYahooで「アオリイカ 餌木」とか検索して1週間勉強した。
那佐湾の悲劇 |
那佐湾空撮
1週間後ネットで猛勉強した俺は那佐湾にムツと立っていた。この日は出発が遅かったので既に日は暮れていた。
投げ始めて15分ほどした頃30m程左側でキャストしていたムツが知らない内にアオリイカを釣っていた。サイズは胴長20センチくらい。玉網が手元になかったので抜き上げたらしい。
「よかったな。やっぱりイカおるやん。」と言いながら俺の顔は引きつっていた。「ちきしょう、俺も釣ってやる。負けるもんか。このままじゃ10年前と同じだ。しかも黙って抜き上げやがって。」
そんな心の叫びがイカに届いたのか、底を竿でズル引きしていた俺のヤマシタ製紫4号エギが何かに引っかかったような感触、アワセもいれず少しロッドに聞いてみると根掛かりではない生物感を感じた。これはイカに違いないと慎重に寄せてくるとあと5m辺りのところでプシューと言う音が。「やっぱりイカだよ。やったついに釣った。初めて釣った気がする。やったぜ父ちゃん」とか思いながら横を見ると、50mほど離れてキャストしていたムツはまだこちらの様子には気づいてない。
「ふっふっふ、さっきはよくも驚かせてくれたな。今度はお前が驚く番だぜ。」海面からの高さは2mくらい、イカのサイズは胴長20センチ程度。ムツが抜き上げたんだから大丈夫と判断した俺はロッドの胴の部分を持って抜き上げにかかった。慎重に慎重に。イカが海面を離れた。「お、重い」胴に海水をタップリたくわえたイカは相当重かった。海面から50センチ、1m、ゆっくりロッドを上げていく。もう少し、もう少し。
バシャーン!「ああああっ〜」バレた。イカは何が起きたのか判らず一瞬海面に浮かんでいたが、ハッと気づいたように無情にも去っていった。俺は全身の力が抜けその場にガックリと膝をついた。まるで9回裏に逆転サヨナラホームランを打たれたピッチャーのように。
「イカ、抜き上げ、落ちた、タモ、いる、なんで」あまりのショックに外国人が喋るようなカタコトの日本語で俺はムツに今の一部始終を訴えていた。ムツもかける言葉が見つからず気の毒がっていた。「残念でしたねぇ」そりゃそうしか言えないわな。あの落ち込みよう見たら。
しかし、イカが釣れたのは事実だ。しかも短時間に。「今夜は大丈夫、イカは沢山いる。きっとこれから爆釣さ」気を取り直して再びキャストを始めて数分、「なかがーさん、玉網お願いします」なんとムツがまたヒット。サイズは同じく胴長20センチほど。「なんで抜かないの?」「いやー、さっきのバラシ聞いたら慎重になっちゃって」そりゃそうだ。屈辱感から軽いめまいを感じながらタモ入れ成功。こいつはさっき俺がバラした奴に違いない。お前、なんで俺のエギにのらないんだ。じっとイカを見つめる俺を見て黙り込むムツ。俺だって立場が逆だったら掛る声もないわな。先輩は釣れず、自分だけ2杯。この時ムツはきっと完徹を覚悟したに違いない。
それからどの位シャクっていただろう。多分2時間はシャクっていたに違いない。イカはムツが釣って以来全く反応無し。さすがに移動を考えた。「恵比寿浜へ行こう」
恵比寿浜での決意 |
恵比寿浜遠景
恵比寿浜は徳島でも有数のアオリイカポイントだ。足場が良く車を海のそばに停められるので釣り人も凄く多い。釣果も2キロが釣れたとか3キロが釣れたとか言う話を良く聞いていた。
恵比寿浜に着いた時は夜中の2時頃だったと思う。それでも100m程ある岸壁は釣り人でいっぱい。しかもみんな泳がせなので竿の間隔が広くてエギを投げる所がない。しばらくウロウロしてなんとか正面にならキャスト出来そうな隙間を発見。早速開始した。
投げる、シャクる、巻く、投げる、シャクる、巻く、投げる、シャクる、巻く、投げる、シャクる、巻く、投げる、シャクる、巻く、投げる、シャクる、巻く、投げる、シャクる、巻く、投げる、シャクる、巻く、投げる、シャクる、巻く、投げる、シャクる、巻く
心に深い傷を負っていた俺はひたすらキャストを繰り返した。ムツは那佐湾で2杯釣れた安堵感から車の中で眠りこけている。4時間以上キャストしただろうか。全くアタリはない。周りの餌釣りの人にもアタリはない。空がうっすらと明るくなってきた。もう俺を動かしているのは屈辱感けだ。シャクリ続けた左腕はガクガクになって感覚も無くなってきた。
隣に餌釣りのおじさんがやって来た。朝マズメを狙ってるんだろう。慣れた手つきでアジをセットし5m位先に放り込んだ。「けっ、残念だなおじさん、今日イカはいねーよ。なんたって4時間シャクってアタリ無し。周りの餌釣りの人も釣れてないんだよ。」俺は心の中でそう呟いていた。
その時、車のトランクをゴソゴソとやっていたおじさんが猛ダッシュでこっちに走ってきた。俺はさっきの心の叫びが聞こえたのかと思ってビビッていると、おじさんは猛然と竿をシャクって「よっしゃ」と一言、リールを巻き始めた。まさかと思って見てると、ゲゲゲいきなり釣れてる。ちょっと待ってくれよ。おじさんは来て5分、俺は4時間だぞ。それは無いんじゃないの。神も仏も無いのか。
やめた。完全に俺の負けだ。イカの野郎、馬鹿にしやがって、この恨みはきっと晴らすからな。覚えとけ。傷心の俺は次回のリベンジを決意して恵比寿浜を後にした。
復讐の始まり |
イカへのリベンジの日々が始まった。まず俺は本屋で関西の釣り別冊の「SWエギングQ&A」を購入、むさぼるように読んだ。「フムフム、ラインはPEがいいんだな。」「シャクリは2段シャクリか、どうやるんだろう。こんな感じかな。」「ダートってなんだ?」読めば読むほど疑問はつのるばかり。ダメだ読んだだけじゃ判らん、ということで釣りサンデー発行のビデオ「アオリイカ最強エギング」をネットで購入、平松氏の登場するこのビデオを見てやっとエギでの釣り方がなんとなく理解できた。
風呂に入るときはエギを持ち込みイメージトレーニング、更にポイントで安く買ってきたデフレエギのシンカーをカットしてスローシンキングに調整、アルテグラはシーバス専用にして新たにabuのリールを購入しPEの0.8を巻いた。ロッドも10年前の剛竿は引退させ、シーバスとイカを両立できそうなものと思いショップで相談してテンリュウの8.6フィートのものを購入した。
この頃、前述のムツとは違う、別の後輩が仕事の関係で徳島にやってきた。名前はモンタという。みんな会社の同僚だ。モンタとは同じ会社ながらこれまで一緒に仕事をしたことが無かったので、最初はどんな奴か判らなかったが、ある日モンタのパジェロをふと見るとウエダのステッカーがリアガラスに貼ってあるのを発見。話を聞くとモンタも釣り好きで一人でよく釣行するらしい。しかもイカ釣りが好きでエギもやるし餌釣りでは1キロオーバーも上げているらしい。話を聞いてすぐ意気投合、今度仕事が終わってから釣行することになった。
返り討ち |
真夏の古牟岐の堤防から
ロッドもリールも新調、さらに2段シャクリやダートも会社の横の川で練習した。ビデオのとおりロッドを動かすとエギが左右に首を振る。「120円のデフレエギでもいけるやん」もっと高級なエギを買うかどうか悩んでいた俺は、ロッド、リール、PE、ビデオ、本と立て続けに購入、更に仕事の関係でよくやるゴルフのドライバーがどうしても欲しくなって思わず買ってしまっため極端な金欠病に陥っていた。
「エギは我慢しよう」アオリーQやエギ王とデフレエギなんかの格安エギをよーく見比べても当時の俺には違いが判らなかった。「こんなんブランドだけやろ」「イカから見たら微妙な形の違いなんか判るわけないわ」それでもさすがに120円のデフレエギだけでは心許ないので奮発して480円のエギをいくつか購入した。
準備万端、知識の詰め込みすぎで超頭でっかちになった俺はムツとモンタを誘って平日夜に出動した。午後8時にモンタを仕事場で拾い県南部に向かう。モンタは徳島が初めてなのでポイントはムツと俺任せ。明日もみんな仕事なのでそんなに遅くまではムリだろうということで二人で相談して釣具店のメールサービスで連日好調と聞いていた古牟岐へ行くことになった。
古牟岐に到着、平日と言う事もあり釣人は誰も居なかった。古牟岐のポイントは港内とミオ筋から外向きの2箇所に分かれる。港内は常夜灯に照らされベイトも視認出来て釣りやすい。外向きの堤防は真っ暗なうえ足場の悪いブロックからの釣りになる。同僚二人は30代とはいえまだまだ若く、平気でブロックの上を跳んで行く。俺は日ごろの飲み過ぎと運動不足から外向きのブロックを諦め港内で釣り始めた。
3号のピンクエギをキャストして底を取る。まずは2段シャクリ、フォール後ビデオで勉強したハイピッチショートジャークでエギをダートさせる。常夜灯に照らされた俺のエギがいい感じでダートしているのがハッキリ見える。俺は確信した。「今日は釣れる。勉強の効果が出てるぜ」
2時間も投げつづけただろうか、少しづつ場所を移動しながらキャストしたが反応は無い。外向きのブロックに向かった二人も帰ってこない。今日に限って携帯電話をムツの車に入れっぱなしだ。連絡の取りようが無い。でも釣れてたら何か言って来るだろう。まさか波にさらわれたんじゃないだろうな。そんなことを考えながらシャクリ続けているとやっと二人が帰ってきた。
俺 「あかんなー」
ムツ 「釣れましたよ」
俺 「えっ、うそやん。ちょっと見せて」
クーラーを見せてもらうと胴長25センチほどのアオリイカが入っていた。「いやードラグがジリジリでて気持ち良かったス」この野郎、また俺の知らないところで釣りやがった。せめてやり取りだけでも見たかったよ。「キロは無いですね」うるせえ、このサイズでも俺にとっては初めて見るサイズだ。平常心を装い聞く「どんなエギ使ったの?」「コレです」と言って取り出したエギは俺がさっきまで投げていたのと同じ480円のエギだった。
この日はあまり時間がないのでチェックがてらに由岐本港へ。一番外向きの堤防の先から俺とモンタが投げているとムツが歩いてきた。エギの先にはなんと小型ながらアオリイカがぶら下がっている。奴は堤防の一番根元側にある明かりの下でシャクっていたらしい。
ムツ 「小さいっす」
俺 「はいはい良かったね。」
我ながら冷たい返事だ。しかし少なくとも奴はこの前の恵比寿浜から特に何も勉強していないはずだ。俺はと言えばロッド、リール、ビデオ、本と買いそろえて猛勉強したのにこの差はなんなんだ。夜もすっかり更けてこの日はタイムアップ。俺はまたも復讐を果たせずに帰路に着いたのだった。
とてつもない重量感 |
由岐本港
古牟岐、由岐本港と返り討ちにあった俺は先日ロッドを購入したショップを訪れ相談した。ショップのマスターが言うには春のイカは臆病で、あまり派手なエギの動きを好まない。大きくシャクるよりも徹底して底周辺を叩くほうが良いと言われた。ビデオや本の影響で超頭でっかちになっていた俺はエギがダートするのが嬉しくて底をとったらダートさせまくりだった。しかもダートしているのが見たいため早めに表層にエギを浮かしてしまい自分で釣れない状況を作り出していたようだ。
「よーし、今度は底を徹底して攻めちゃうぜ。イカの野郎覚悟しろ。思わず抱きつかせてやる」数日後、俺とムツ、モンタの3人は平日夜の由岐本港にまた立っていた。堤防の一番先端には餌釣りのおじさんが二人、釣果を聞くと1キロ程度が1杯釣れたそうだ。話を聞いて俄然やる気が湧いてきた。先客に邪魔にならないように気を付けながら場所を確保、キャストを始める。多少ウネリがあるが危険なほどではない。今回はじっくり底までエギを沈め軽くシャクる。セレクトしたエギはこの前ムツが古牟岐で釣ったのと同じものだ。
20分ほど経過したときググッと何かが乗った感触。テンションを緩めずに少しロッドに聞いてみるとググゥ、ググゥと少しではあるがロッドが締め込まれる。来たっ、大型の春イカはあまり引かないって本に書いてあったぞ。こんな感じか。心臓がドキドキしてきた。ゆっくりゆっくりリールを巻き始める。相当重い。遠投していたので手前まで寄せるのに随分時間が掛かった。ムツとモンタは気づいてないが声を出せばいつでも聞こえる位置にいた。前回のような失敗をしないためにも今日はイカが見えたらすぐに声を掛けよう。俺は心の中でそう決めた。
いよいよ近くに寄ってきた。俺は徳島が唯一世界に誇る日亜化学の白色LEDのヘッドライトを点灯させた。足元を照らす。少し向こうの水面下に大きな白いものがぼんやり見える。相変わらず少しロッドが締め込まれる。慎重に浮かす。ん?白地に青い文字がうっすらと・・・・・・・・・・・・・・
それはローソンの袋だった。ロッドを締め込んだのは波だった。大きなイカを釣ったことのない俺は本当に大イカだと勘違いしていた。今の心臓バクバクはなんだったんだ。あまりの悲惨さにめまいがしてきた。何とかローソン袋を釣り上げムツとモンタに報告、当然ながら二人は大爆笑だった。
結局この日は誰にもアタリが無かった。俺は心臓ドキドキした分だけ得したのか損したのか・・・
初めてのアオリーQ |
プレミアムアオリーQ「トマト」
6月、連敗は続いていた。ある日の休日、俺は珍しく嫁さんと買い物に出かけ、ついでに釣具屋に寄ってもらった。目的はエギコーナーだ。ロッドもリールもラインも替えた。腕は替えられないけどそれなりに勉強したつもりだ。ただ、エギだけは相変わらず安物オンリーで頑張っていた。「やっぱりエギが悪いのかなぁ」この頃の俺はそう考え始めていた。
プレミアムアオリーQを手に持ち「しかし高いよなぁ。デフレエギなら10個買えるぞ」と思いながら元の場所に戻そうとすると
嫁さん 「父の日のプレゼントに買ってあげようか」
おおおおおお〜っ。なんと言うお言葉。この時ばかりは嫁さんが女神のように見えた。
俺 「どれにしようかなプレミアムアオリーQ。ルルル〜」
たくさんある中から悩んだ末、なぜか色が気に入ったトマトを選んだ。でもよく考えると1つだけだし、父の日のプレゼントがたった1200円か。なんか作戦にはまったような気がするぜ。でもこの時は凄く嬉しかった。これで連敗脱出出来そうな気がしてきたぞ。
イカゲット〜(泣 |
亀浦観光港(中央下)と室漁港(左上)
徳島、大きな川の多いこの街は雨が降ると夜な夜なシーバスを求めるアングラーで静かに賑わっている。俺の会社は徳島市内の中心部にあり、市内でも有数のシーバス有名ポイントまで徒歩2分と恵まれた環境にある。イカに馬鹿にされつづけていた俺は安らぎを求めこの頃シーバスに浮気していた。
ネットで情報収集するとアオリイカは7月が一番釣りにくいということもあり、7月初旬の週末俺はムツを誘い鳴門へシーバスを釣りに出掛けた。あちらこちらとチェックしながら移動、キャストを繰り返すがシーバスの姿は無い。亀浦観光港に到着した頃、正面から物凄い強風が吹いてきた。しばらく風と喧嘩しながらキャストしていたが、あまりのひどさに相談して移動することになった。
室漁港は亀浦観光港の丁度正面にある。背後に山があるため北西の風には滅法強いポイントだ。シーバスの魚影も濃いがアオリイカも非常に濃く鳴門方面ではトップクラスのイカポイントである。室漁港に到着した二人は打ち合わせたわけでもないのに何故かラインの先にエギを付けていた。実は二人とも去年初めてアオリイカを釣ったのが室だった。
ムツは駐車場正面の護岸の上から、俺は明かりのついている漁港で投げ始めた。1時間ほどエギをシャクるがやはり反応は無い。「大体7月はイカが釣れないって聞いてるのになんでエギを投げてんだよ」疑問に思い始めた頃、照明に照らされた海面をなにか細長い透明感のある物体がゆっくりと漂っている。俺は玉網を取り出してすくってみた。
「プシュープシュープシュー」それは胴長20センチほどのスルメイカだった。このイカはエギを追いかけてきたんだろうか?良く判らないのでとにかくエギを投げまくるがそれっきりだった。「どうですか?」ムツが様子を伺いにやってきた。俺は黙って玉網を指差した。「あれっイカじゃないですか。良かったですね。とりあえず念願のイカゲットですね」ニヤニヤしながら言っている。ゲットはゲットだけど嬉しくないよ。エギで釣ったんならともかく、網ですくったんだぜ。この日はこれでやる気を失って帰宅。イカは刺身にして美味かったけどなんか複雑な気持ちだった。
目からウロコ |
イカをすくって余計にモヤモヤした気分になった俺は完全にシーバスに浮気し、会社帰りにすぐ近くのマイポイントでキャストしてそれなりの釣果を上げていた。
7月後半のある日、徳島新聞の朝刊を見るといはら釣具が全商品20%オフの広告を出していた。「ルアーでも補充するか」そう思って珍しく家族で遊びに出かけた俺は、嫁に頼んでいはら釣具に寄らせてもらい、なにか掘り出し物はないかと物色し始めた。グルグル店内を回っているとビデオコーナーの前に出た。「そうだ、エギングのビデオはないかな」
何本かエギングのビデオが置いてある。この前ネットで買った『アオリイカ最強エギング』
他に『日中エギングのすすめ』『餌木ing極意T』『餌木ing極意U』
「餌木ing極意T 陸っぱり編?なんだこの趣味の悪いビデオ、なんか漢字使ってコテコテな雰囲気だし、出てる人も茶髪でサングラス掛けて感じ悪そう。おまけに値段も一番高いじゃん」そう思い、手に取ったビデオを戻そうとしたが、もう一度パッケージをよく見てみた。「日本海・瀬戸内海・太平洋か。うーん、前に買ったアオリイカ最強エギングは三重と和歌山だったよな。瀬戸内海っていうのが凄く気になるな。どうしようかな」しばらく考えて瀬戸内海っていうのに惹かれ結局購入を決めた。
家に帰って早速ビデオを見た。
「うわっ、コテコテの関西の人が出てきた。ホントにうまいの?」最初はこんな感じ。
日本海編
「凄い、サイトで乗りまくり。えっ、これで調子悪いの?」
淡路島編
「花博の跡地、この辺ならキス釣ったことあるな。見覚えのある所だ。しかも徳島からすぐ近いじゃん」
そして太平洋編
「あっ、室戸岬漁港。」「おおっ、鞆浦漁港に手倉湾」「うわっ、竹ヶ島」
持ってる人は判ると思うけど、サーフィンをやってる所で釣ってるのは竹ヶ島のサーフィンのポイントで、俺も若い頃何度も通って海に入っていたポイントだ。「あんな所であんな簡単に釣れるんだ」俺の両目はウロコボロボロ状態になり、何度も何度もビデオを見た。内容もシャクリ方、底の取り方、サイトでの釣り方他、内容が凄く濃いビデオで本当に買って良かった。やっぱり見た目で判断しちゃダメだな。後で知ったんだけど二人ともすごく有名な人だったんだよな。
ビデオに出てきたシーズンは秋だった。俺は首を長くして秋になるのを待つことにした。
イカ発見!! |
梅雨が明けたのか明けてないのかよく判らない天候が続き、夏が始まらないままお盆になってしまった。俺は香川の実家に家族で帰省していたが、釣りの虫が疼きムツに電話した。
俺 「なんか釣りに行こうか」
ムツ 「嫁さんと子供は帰省したので釣り放題です。どこでも行きますよ」
俺 「じゃあ、明日徳島の俺の家で待ち合わせして釣りに行こう」
俺は理解ある嫁さんのおかげ?でもともと自由に釣りに出掛けられるが、ムツは休みが不規則なうえ休日出勤も多い、おまけに子供もまだ小さいので休みだからといって俺みたいにはホイホイと釣りには行けないのだった。
朝早く家に戻った俺はムツが迎えに来るまでに何を釣りに行くか決めようと、ネットで情報収集を始めた。こんな時役立つのが「四国の釣り世界」だ。四国四県の釣りのリンク集で色々なジャンルを網羅していて情報収集には最適だ。徳島のカテゴリから鳴門の「岡豊釣漁具店」のHPを覗いてみると亀浦でアオリイカが釣れていると書いてあった。俺は忘れかけていた春先からの屈辱がメラメラと燃え上がってくるのを感じ、迎えに来たムツの意見を聞きもせず問答無用でアオリイカを釣りに行くと告げた。
一口に亀浦と言ってもポイントはかなり広い。更なる情報収集に岡豊釣漁具に寄り、タダで教えてもらってはいかんと思った俺はプレミアムアオリーQのキスホワイト、ムツは偏光グラスを購入した。店の主人の話ではつい最近3キロを餌木で上げた人がいるそうだ。さ、さ、3キロ?!俺は体中からアドレナリン大噴出状態になり早速亀浦に直行した。
亀浦に到着、徳島出身で最も成功した企業、大塚製薬グループが運営する大塚国際美術館の駐車場裏からキャストし始めた。投げても投げても反応は無い。とりあえずアオリイカを探すために二手に別れて探ることにした。ムツは亀浦観光港の方向へ、俺は亀浦漁港に向けて探りつつ移動し始めた。
大塚国際美術館駐車場から亀浦漁港方面を望む
お盆と言うこともあり、大塚国際美術館の周辺は人でいっぱいだ。駐車場から美術館へ向かう人が珍しそうに俺のシャクリを見ている。何を釣っているのかと聞いてくる人もいたので俺は「イカです」と答えた。「イカがこんな所で釣れるんですか」そう聞かれても俺だって「そうらしいですよ」としか答えられないんだよ。「答えにくいこと聞くんじゃねえ」心の中ではそう思ったが、せっかく徳島に観光に来てくれている方々に不快な思いをさせてはイカンと思い「僕はまだ釣れてないんですけどね」とみんなにニッコリと返事した。
さんざんシャクったが生体反応は全く無かった。あきらめて駐車場裏にスゴスゴと戻りムツに電話してみると「ダメです」やっぱり向こうもダメらしい。俺はムツが戻ってくるまで暇なので目の前の海にエギをキャストして適当にシャクっていた。手前までシャクってエギを回収しようとしたその時!俺のエギの後に小さな黒い影がたくさん現れた。ん?魚が追いかけてきたのかな。もう一度キャストしてみる。また現れた!イカだ!それはもの凄く小さいがアオリイカの集団だった。大きさは3〜4センチで10杯程度の群れ。明らかに俺のエギを取り囲み様子を伺っている。大きさに違いはあれその様子はこの前買った「餌木ing極意T」での映像とそっくりだった。
初めて見たサイトでのアオリイカ、それは小さすぎてとてもエギで釣れるような大きさでは無かったが俺は無性に嬉しくなった。もう少し、もう少し大きくなったら釣れる。それまで誰にも釣られるなよ。そう思い、その日の釣果はゼロだったけど俺は満足して帰路に着いた。
シャクリ中毒 |
9月最初の土曜日、俺は太刀魚を狙うおうと朝4時に小松島港に出掛けた。1万トン岸壁の左側にある波止の常夜灯下が俺のお気に入りポイントだ。幸いにもポイントは空いていた。このポイントは餌釣師が一人でも入ると定員でとてもルアーを投げるのは無理な状況になる。俺はアイルマグネットホログラムシラス70mmをセットしながら水面の様子を伺った。太刀魚がベイトに襲いかかっているのが見える。いるいる。ルアーを斜め前方にキャスト、膝をつきながらスローで引いてくる。始めて間もない時だった。ゴツン!太刀魚のアタリだ。まだシーズン前半なので指2本半とあまり大きくないが体をくねらせながら太刀魚が上がってきた。いつ見ても釣り上げたばかりの太刀魚の煌めきは美しい。
海のルアーを始めたキッカケは、先輩が香川県の津田町で太刀魚が釣れるから行こうぜと誘ってくれたのが最初だった。バス用のロッドとダイワのシーバスハンターを2、3個購入して投げてみると面白いように釣れた。もともと小学生の時から釣り好きだった俺を再び釣りの世界に引き込むのはそれで充分だった。
3匹ほど釣った頃、ハシゴをおじさんが上がってきて常夜灯の真下に入りクーラーを置き仕掛けを作り始めた。常夜灯からほんの少し離れたところから明かりの向こう側にキャストしていた俺は「おじさん、それじゃ俺が投げられないよ」と思ったが、まあ久しぶりの太刀魚がすぐに三本釣れたしもういいかと家に帰ることにした。
俺は一眠りして昼からエギを投げる計画を立てていた。もう9月だし釣れてもおかしくないはずだ。ネットの情報では小さいのが少しずつ釣れだしたと目にしていた。しかし、昨日の夜、ネット情報をもとにムツを鳴門の粟田漁港へ偵察に向かわせたが「スミ跡は無いし少しシャクってみたけどだめでした」と連絡が入っていた。
粟田漁港
少し眠りすぎた俺が粟田漁港に到着したのは夕方の4時頃だった。まだ夏の気配が残り、強烈な西日で堤防のコンクリートは熱く焼けていた。ここには初めて来たのでちょっと堤防を歩いてみた。周りに釣り人は居ないしスミ跡もない。車まで戻った俺は再び長い波止の先端まで行くのが面倒になり、波止の付け根の堤防の上からキャストし始めた。ここは高い堤防で偏光レンズを通してシモリや砂地がはっきりと見える。ビデオ「餌木ing極意T」で見たとおり、基本に忠実に底を取ってシャクることにした。
1投目、エギが視認できるあたりまで来た時、エギの周りに白い影が見えた。もう一度シャクる。出たっ!イカだ!サイズはそんなに大きくないけどお盆に見たのよりずっと大きくなっている。よく見ると俺のエギの周辺には5杯くらいのイカがいた。エギがゆっくり沈んでいく。イカが追いかけて触腕を伸ばす。なかなか乗ってくれない。触り掛けたと思うとまた離れてゆく。俺は夢中になりエギを投げ返した。何度目かの挑戦、1杯のイカが触腕を伸ばし俺のエギを抱いたのがハッキリ見えた。イカに抱かれたエギが向こうに泳いでいく。緊張のあまり口から心臓が飛び出しそうになりながらアワせてみると手応えとともに水面が真っ黒に染まってゆく。「やった!ついにやった。今度こそ狙って釣った」海面から慎重に巻き上げる。那佐湾の時のようにまたバラシてしまわないかと心配したが大丈夫だった。なぜか体が震えていた。それほど嬉しかったんだろう。
初めて「釣った」アオリイカ
堤防の上に置いたアオリイカをよく観察し携帯のカメラで写真に撮る。実際にはこれまで何杯か釣ってはいるが、狙って釣ったのは初めてだった。ムツに電話する。
俺 「やった、ついに釣ったぜ。粟田漁港で爆釣だよ。」
ムツ 「ついにやりましたね。何杯釣ったんですか。」
俺 「まだ1杯だけどたくさんイカが見えるからもっと釣れそうだよ」
ムツ 「頑張ってください」
後で聞いたんだけどムツは何で1杯なのに爆釣なの?と不思議に思ったらしい。きっと、この時の俺は日本語の使い方を忘れるくらい興奮してたんだろうな。
あれほど苦労したのが嘘のようにイカがエギに乗ってくる。ビデオでエギングを始めるなら秋が良いと言っていたがそれを実感した。特にこのポイントは足場が高いのでイカからは俺の姿は見えないし、満潮で足元でもまあまあ水深があったので凄く釣りやすかったんだと思う。薄暗くなってサイトが出来なくなり竿を置いた。釣果は胴長10〜14センチを8杯だった。
なんだろう?初めて太刀魚を釣った時、初めてシーバスを釣った時とも違う不思議な感覚を俺は感じていた。苦労して釣ったんなら初めてのシーバスだって相当苦労した。でもこの釣りは全くこれまでと違う楽しさがあった。そのままでは全然アクションしない餌木を自由自在に操り、見えているイカと駆け引きしながら乗せる。乗ったときの独特のクイーンクイーンという引き。今でもなぜこんなにエギングにハマってしまったのか答えは判らない。この最終章を書いている12月初旬まで休みの日は一度も欠かすことなくエギングに出掛けている。どうやら俺はシャクリ中毒にかかってしまったみたいだ。